多焦点眼内レンズ(Multifocal Intraocular Lens)
通常の白内障手術は単焦点の眼内レンズを挿入します。レンズの特性上1点にしか焦点が合わず、眼鏡が必要不可欠になります。しかし、趣味やスポーツや仕事などを行う上で、お一人お一人の生活スタイルを尊重し、できるだけ眼鏡装用の必要がない快適な生活を送るために多焦点眼内レンズが開発されました。
2007年6月厚生労働省から2種類の多焦点眼内レンズが認可されました。
ReZoom(AMO社:図1):屈折型とReSTORE(ALCON社:図3):回折型との2種類です。その後、TECNIS MULTI(AMO社:図3)も認可されています。
2019年、国内で、3焦点の多焦点眼内レンズPanOptix(詳細)およびPanOptix toric(詳細)が認可されました。
認可されていないレンズには単焦点に追加で挿入できる多焦点レンズ(Add-On:Human Optics社:図4)や完全オーダーメイドで乱視も矯正できる分節状屈折型多焦点眼内レンズLentis Mplustoric:図5)があります。最近は、3焦点のトリフォーカルレンズや球面収差を利用した多焦点もあります。
ReZoomは現在、製造中止になり、HOYA社製のiSii:PY-60MV(図2)が屈折型で唯一の選定医療適応の屈折型の多焦点眼内レンズです。Custom Match(図6)という、屈折型と回折型を1眼ずついれる方法や、回折型カスタムマッチというTECNIS MULTIの+4Dと+2.75Dを片眼ずついれる方法など、お一人お一人の生活スタイルに合わせてレンズを選択することで、ほとんどの方が眼鏡なしの生活を送れるようになります。
2020年4月より、多焦点眼内レンズ挿入術は先進医療から外れ選定医療になりました。
選定医療になったことにより、選定医療の多焦点眼内レンズの術前検査、術後検査はこれまで同様に健康保険が認められ、自費診療の多焦点眼内レンズは術前検査から術後3カ月まで全てが自費診療になります。
また、選定医療の費用負担は手術代金は健康保険になりますので、16100点の2割から3割が自己負担で、多焦点眼内レンズの費用が自費になります。金額に関しては、費用のところをご参照ください。
AcrySof® IQ PanOptix® Trifocal
AcrySof® IQ PanOptix® Trifocal およびPanOptix® Trifocalトーリックは、白内障屈折矯正手術において、中間、近方がみることができ、術後のQuality of Lifeを向上させます。
これまで、先進医療では2焦点しかなく、初めてのトリフォーカル(3重焦点)眼内レンズです。
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屈折型
屈折型は遠方重視の遠近両用の眼内レンズであり、3ゾーンタイプの中央で遠方、その周りで近方を見るようになっているため瞳孔が3mm以上ないと近くが見えない場合があります。
暗いところでは瞳が大きくなる為近くが見やすくなります。
光量が100%使用できるため、コントラスト感度は低下しませんが、夜間のグレア、ハローが回折型より強いようです。
■屈折型の遠方視力と近方視力
回折型(ReSTORE,TECNIS MULTI:図3)
回折型は回折現象で近くを見る近方重視の遠近両用の眼内レンズで、瞳孔の大きさに関係なく近くがよく見えます。 明るいところでも近くが見えますが、光量を41%しか使用しないため暗いところでは近くが見にくくなります。加入度数が+4Dと+3Dがあります。+3Dではトーリック(乱視矯正)の多焦点もあります。
■回折型ReSTOR視力
追加型(Add-On:図4)
既に単焦点眼内レンズが挿入されている人に、2次的に嚢外に挿入する多焦点眼内レンズです。 回折型のレンズで加入度数は+3.5Dで、乱視も矯正できます。
↑ 図4:追加型IOL
新しい分節状屈折型多焦点眼内レンズ:Lentis Mplus toric(LMPT)
屈折型の欠点は
1)明るいところでの近くの見え方が落ちる
2)グレア、ハローが強い
3)加入度数が弱いため30cmの視力が回折型より落ちる
などですが、近方部分が扇状のLMPTおよびLMPxTは1)と2)の欠点が解消されました。LMPxTは近方面積が増えたこと、中央の遠方の面積を小さくするこ
と、境目を滑らかにすることにより、中間視力から近方視力の見え方をよりよくできるようになりました。
さらに、多焦点眼内レンズでは始めて乱視を矯正し、球面度数を0.01Diopter(D)刻み、乱視度数も0.01D刻み、乱視軸は1度刻みと完全なオーダーメイドにすることにより、より精度の高い見え方が期待できます。
ただ、先進医療認可のレンズではありませんので自費診療になります。また、発注からレンズが届くまで5週間を要します。
セントラルアイクリニックは中部地方で最初にLMPTを手がけ、手術件数も一番多いです。LMPTは患者満足度が最も高い多焦点眼内レンズです。
■LMPTとLMPxTの中間視力
カスタムマッチ(Mix and Match)
遠方、近方だけでなく、中間(50〜70cm)もみたいひとのための眼内レンズの組み合わせ、片眼に屈折型、僚眼に回折型を入れることによってピントの合う範囲を広くする方法。
新しい技術「回折型カスタムマッチ+2.75D/+4D」
■回折型カスタムマッチ+2.75D/+4Dとは?
通常、多焦点眼内レンズは遠くも近くも見やすくなります。しかし、遠くから近くまで連続的に均一に見えるわけではありません。特に中間距離が見にくい場合があります。
しかしこれまで、加入度数+3D近辺は屈折型しかありませんでした。 このため従来はミックス&マッチといって、屈折型+3D、回折型+4Dと、左右でタイプ
の異なる眼内レンズを使用していた為、左右別々で見ると見え方が異なり、若い人には問題がなくても、65歳以上の場合、見え方に慣れないことがありました。
最近、同じ回折型の+2.75D、+3.25Dが発売された為、より良い視力をご提供できるようになりました。 明るさが同じで、+2.75Dによって50cmが最もよく見える、+3.25Dで40cmが良く見え、+4Dによって30cmが最もよく見えるようになります。 また、同じ回折型のため、見え方の感覚が同じで、全距離0.7以上の視力が期待でき、携帯もパソコンも遠くも同じように見ることができます。
近くの見えかたを優先される方々には良い方法です。
■+2.75+4の原理
+4Dのレンズは、近く(30cm前後)は良く見えますが、中距離(70cm前後)が見にくいので、その谷間を+2.75Dのレンズが補う形です。
↑ 回折型カスタムマッチ+2.75D、+3.25D、+4Dの見え方(2)
これにより、人にとって最も重要な遠方視力も良好に維持しつつ、中距離、および近方裸眼視力を維持します。
回折型カスタムマッチ+2.75D/+4Dにより、遠くから近くまで見やすくなり、日常生活において、眼鏡への依存度を減らす事が可能となります。
↑ 回折型カスタムマッチ+2.75D、+3.25D、+4Dの見え方(3)
タッチアップ
多焦点眼内レンズの挿入で近視や乱視が残った場合、LASIKあるいはPRKにより、残っている度数をなくすことができます。これをタッチアップといいます。角膜乱視(眼鏡の乱視とは異なります。)が1 Diopter以上ある場合は裸眼ではっきり見るためには、乱視矯正のできるレストア トーリック,Lentis Mplus toric、トリフォーカルの挿入が必要です。乱視のない多焦点の場合は術後3か月以降に、LASIK,PRKによるタッチアップを行う必要があります。多焦点は白内障が行える施設であれば、可能ですが、レーシック手術ができる施設で多焦点をやった方が満足度が高くなります。もし、多焦点術後の見え方で満足できなくて、眼鏡でよく見える場合はタッチアップで裸眼の見え方が良くなります。通院されている医師にLASIK施設への紹介状をお願いしてください。
プログレッシブIOL(Miniwell Ready)
球面収差を利用して、遠・中・近(50cm)でスムーズな見え方を実現、このレンズの最大の特徴は多焦点では必ず認められるグレアやハローがほとんどないことです。暗い所では、遠くはよく見えますが、近くはみにくくなります。また、明るい所でも30cmは眼鏡が必要です
グレア、ハローの図
各種多焦点眼内レンズの比較